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【映画】おくりびと あらすじと感想 本木雅弘演じる主人公の見事なキャリア・チェンジのお話

おくりびと

演奏家から納棺師になった男の話。

 

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作品情報

公開年度 2008年
上映時間 130分
監督 滝田洋二郎
脚本 小山薫堂

第81回アカデミー賞外国語作品賞
第32回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞している。
脚本は「くまもん」のプロデュースを手掛けたことでも有名な小山薫堂

キャスト

小林大悟チェリストから納棺師へ転職した男(本木雅弘

小林美香・大悟の妻でウェブデザイナー広末涼子) 

佐々木社長・NKエージェンシー社長で納棺師(山崎勉)

上村百合子・NKエージェンシー社員(余貴美子

山下ツヤ子・行きつけの銭湯の主人(吉行和子

銭湯の息子・ツヤ子の息子で大悟の友人(杉本哲太

平田正吉・銭湯の常連客で、実は火葬場勤務(笹野高史

小林淑希・長年失踪したままの大悟の父親(峯岸徹)

あらすじ


小林大悟はオーケストラのチェロ演者だが、所属するオーケストラが解散して職を失う。

演奏家として限界を感じていた大悟は楽器を手放し、妻 美香と亡き母の家がある山形県酒田市に引き揚げる。

「旅のお手伝い」という求人欄を旅行会社と思った大悟はNKエージェンシーに面接に出向くが、社長の佐々木は「旅立ちのお手伝い」と誤植だと打ち明ける。
NKエージェンシーは納棺師の会社だったのだ。 


感想

夢を失った人生の先にあるもの

生きることと死ぬことは人生の大前提です。
母の死に目には遭っておらず、蒸発した父とは何十年も会っていない身よりのない大悟にとって、死はそれほど身近な存在ではなかったのかもしれません。

それよりも演奏家としての夢を諦めたことによる、足元の覚束ない不安定な感情が大悟にとっては大きな問題でした。
もっと苦しむかと思ったけれど、チェロを手放して「ほっ」としてしまう自分を自嘲しながら軸を失った大悟はただ酒田へ戻ります。

 

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仕事を選ばない大悟

酒田で仕事を探していた大悟は新聞記事の求人蘭にあった「高給保証」「正社員」「実質労働時間わずか」という甘い言葉に惹かれて佐々木が経営するNKエージェンシーの門をくぐります。
そして納棺師の弟子になるのですが、大悟の心はどこか虚ろでした。

生まれ故郷に戻って、妻美香とつつましやかに暮らそうと考えていた大悟にとって思っても見ない展開です。
しかし音楽を諦めて「何がしたい」「何がしたくない」という強い希望を持たない大悟は、成り行きで納棺師への道を進みます。
その姿勢は前向きというよりは受け身でした。

NKエージェンシー社長で納棺師の佐々木は、これまで上村百合子だけを雇い仕事をしてきました。
初めての社員だという大悟を佐々木はかわいがります。
しかし特殊で過酷な仕事内容は、大悟にとってかなりの苦痛を伴うものでした。

 

妻の妊娠・父の死

やがて大悟は、佐々木の仕事ぶりを通して納棺師という仕事をプロフェッショナルな仕事だと認め、遣り甲斐と誇りを感じるまでに成長します。

美香に仕事の内容がバレてしまい、普段温厚な美香に納棺師をやめてほしいと泣きつかれても大悟は仕事を辞めようとはしません。

人がどう思おうが自分にとって納棺師は一生続けていける仕事だと実感する大悟に2つの知らせが入ります。

1つは妻 美香の妊娠。
そしてむ1つは、何十年も音信不通だった父、淑希の訃報でした。

これまで生死がどこか人ごとだった大悟にとって、生と死が一気に身近になるのですが、実際に生と死とはそんなものではないでしょうか。

プロフェッショナル嗜好の強い大悟の心をつかむ納棺師という仕事 

大悟は佐々木と仕事をするうち、納棺師の仕事に魅せられるようになります。
納棺師という仕事に音楽と共通する美意識を見出すことができたからで、佐々木の仕事の美しさに感動したというのもあります。

世の中に溢れている仕事ではなく、特殊でプロフェッショナルな意識がないと務まらない職業というところが、音楽をやってきた大悟の琴線に触れたのが伝わったところが興味深い見所だと思います。

つまりこの映画は生死感を描いた話というよりは、キャリアチェンジをテーマにした話だと私は感じました。

 父との思い出・小石のエピソード  

大悟は父との思い出は、子供の頃のものしかありません。そんな大悟が美香と河原に行ったとき、小さな石ころを手渡します。

「石文」(いしぶみ)といって文字がなかった時代、石思いを託して渡したという父から教えられた数少ないエピソードを美香に打ち明ける大悟。
美香いは石に見覚えがありました。家にあった石が大悟が父から受け取ったものだと気づきます。


やがて父淑希の訃報を受けながら、葬儀に向かうことを拒否した大悟でしたが、佐々木と上村の説得もあって、美香を連れて父の元に向かいます。

部屋で亡くなっていた淑希を手荒く扱う役所の人間を押さえて、大悟はこれまでやってきた納棺師としての仕事を父に施します。

両手を組み直したとき、淑希の掌からこぼれ落ちる小石。
大悟は涙を流すのでした。

 

 

nojirika.hateblo.jp

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今日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
のじれいか でした。


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