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【映画】約束 あらすじ・感想【萩原健一と岸恵子】

「約束」

一言でいえばこんな話

 

夜行列車で偶然出会った服役中の女囚と若い男が、一時心を通わせる話。

 

 

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斎藤耕一監督が手掛けた傑作ね。悲しくて切ない70年代映画 

 

約束

 

あらすじ


青森行きの夜行列車に揺られている松宮螢子は、向かいに座った若い男に親しげに話しかけられる。
最初は返事をしない螢子だが、次第に男に心を許すようになる。

螢子は借出所中の女囚。看守に連れられて母親の墓参りに行く途中だった。
男の名前は中原朗、螢子が女囚だと知らない朗は、墓参りの後で「明日会おう」と螢子と約束を交わすのだが。

作品情報


公開年度 1972年
上映時間 88分
監督 斎藤耕一


キャスト


松宮螢子/女囚 岸恵子
中原朗/若い男 萩原健一

監視官/螢子の付き添い 南美江
刑事   三国連太郎
護送される犯人 中山仁 

男と女はごく普通に出会う


冒頭、螢子がずっと誰かを待つシーンから始まります。
それが何を意味するかわからないまま、タイトルから、電車のシーンへと繋がっていく様は見事です。

夜行列車のボックス席に座る螢子が、犯罪者だとは最初は到底思えません。
35歳の設定にしては幾分老けて大人びていますが、洗練されているし、やはり美しいから。

途中で乗車して螢子の向かいに座る朗。最初螢子を気に留めず、新聞を顔に被って寝てしまいます。
立ち上がった螢子が朗の新聞を落としてしまうのですが、それでも寝ている朗にヘアピンで新聞紙を留めてあげる。
あとでそのことに気づいた朗が螢子に話しかけますが、螢子は気軽に話しかけられる立場にはない。
だから沈黙を守るものの、長旅のなかで徐々に心を開いていきます。

女の正体がわかるとき

 

朗は螢子より随分若い男ですが、苦労してきたらしく若さ独特の残酷さはありません。
強引なのだけれども、螢子を静かに見守っているようにも見えます。


螢子が心を開かないのは、自分が看守を伴っている囚人の立場だからですが、朗にそのことを知られたくなかったと後に打ち明けます。

朗は驚きますが、でも驚いた理由は、自分とは別世界の女だと思っていた螢子が、自分側の人間だとわかったからでした。

螢子は朗がどういう男なのか尋ねることはしません。
でも何となく気づいている。

だから朗が「明日、会おう」と約束したのにもかかわらず、すっぽかしても怒りはしない。それに「一緒に逃げよう」と言われれば抵抗しない。

螢子は愛に盲目な性格でそれが原因で夫を殺害したらしいのですが、一途でまっすぐで、でもだからこそ危険な性格を垣間見ることができます。

「2年後に会いましょう」


螢子が戻る刑務所の前まで朗は付き添い、ラーメンを3人で食べた後、涙を流して別れを惜しむ。
そして螢子は「2年後に会いましょう」と朗に告げます。
これまでずっと朗が誘い続けてきましたが、初めて螢子から朗に約束を求めるのです。

でも2年後、朗は待ち合わせの場所に現れません。
螢子の表情は2年前に朗を待っているのと同じ表情でした。

でもこの作品を観ている人にはわかっています。
朗は絶対に螢子の元に現れることはないことを。

 

物騒な夜行列車


1970年代の東北の街並みや風景が、物悲しいストーリーをより切なく演出しています。本当に人生のままならさを深く描いている作品で、フランス映画のような深みを感じさせます。

行きの列車で「羽越」という駅で下車するのですが、そこは実在しておらず撮影は「敦賀駅」でおこなわれたそうです。

復路では「しらゆき」という列車に乗る3人ですが、螢子が戻る刑務所のある名古屋に「しらゆき」は停車しない。
そういう小さな嘘のようなトリックがこの作品がどこか邦画離れした雰囲気にさせているのかもしれません。

若き日の萩原健一岸恵子が、鄙びた場所で佇んでいる姿だけで、十分に邦画離れしているのですが。


この頃の萩原健一は立っているだけで絵になります。
螢子が列車に乗ってしまい、それを必死に追う姿は、女ゴロシのストライドです。
普通の人だったら格好が悪くて見れたものではないでしょうが、萩原健一にはこのままずっと走っていてと頼みたくなるほどです。

螢子と朗が乗る夜行列車に、手錠をかけられた男が護送のため乗車します。
考えてみれば随分と物騒な電車です。
けれど考えてみれば、世の中はそんなものかもしれません。
普通に隣り合わせた人間が実はどういう人物なのか、誰も知りはしないのだから。

 

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
のじれいか でした。

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