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【映画】女と男の観覧車 不倫はダメなんだろうけど ケイトウィンスレットの毒気にやられる

『女と男の観覧車』

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ざっくり言えばこんな話

「不幸せなアラフォー女の不倫相手が、女の再婚相手の娘に恋をする話」

娘と不倫相手が結ばれるとしたら、不倫だから仕方ないのかもしれない。だけど切ない。

作品情報・キャスト

公開年度 2017年
上映時間 101分
監督 ウディ・アレン
キャスト ケイト・ウインスレット、ジャスティン・ティンバーレイク、ジム・ベルーシ、ジュノー・テンプル

放題タイトルはイメージどおりでナイス。

あらすじ

1950年代のニューヨーク、コニーアイランド
ジニー(ケイト・ウインスレット)は自分の連れ子と再婚相手のハンプティ(ジム・ベルーシ)と観覧車が見える部屋で暮らす。ジニーとハンプティは遊園地で働いているがある日ハンプティの前妻との娘、キャロライナ(ジュノー・テンプル)がマフィアの夫からかくまってほしいと逃げてくる。
ジニーは日常の不満をアルバイトの大学生ミッキー(ジャスティンバー・レイク)との不倫関係で発散させている。だがミッキーはキャロラインに一目惚れ、しかもキャロラインも同じ気持ちで……。

役柄の解説 

この話の多くの登場人物は出てきません。
ジニーを取り巻く小さな世界で物語は動きます。

ジニー(ケイト・ウインスレット)

元女優で最初の夫に逃げられた経験がある子持ち女。
現在は年上のハンプティと再婚してバーで給仕の仕事をしている。
元女優だからか夢想癖があり、不幸せな現実を夢だと思おうとする一面を持つ。

年下の愛人ミッキーの存在は救いであり、ジニーの唯一の拠り所になっている。
ハンプティとは愛し合って結婚したというより、息子を抱えて生活のために仕方なく結婚しただけ(少なくともジニーにとっては)。
たまに暴力を振い、酒癖も悪いハンプティを生活のため仕方なく受け入れている。
諦めの境地といったところ。
愛情に植えているから愛情を与える余裕はなく、女という存在が唯一のアイデンティティだからと年齢に酷くこだわる。
それ故にハンプティの娘のキャロラインにも女の目線で接する。
しかしだからといって、常軌を逸した悪女というわけではない小心者でもある。

ミッキー(ジャステイン・ティンバーレイク)

ニューヨークの大学に通う脚本家志望の学生。見た目にこだわるお洒落な優男。
ジニーとは軽い大人の関係だと思っていたが、ジニーが本気になり引くに引けない感じに。
脚本家志望だけあって説明的な性格で、根っからの遊び人というほど悪人ではない。
ジニーとの関係も本気で好きになろうと、感情をコントロールするような一面も持つ。

ハンプティ(ジム・ベルーシ)

典型的な昔の動労者タイプで、物事を深く考えるのが苦手。
ジニーのことは愛しているが、血縁の方を大切にしてしまうなど自分の理屈で行動したがり、周囲に与える不公平感に気づこうとしない。
酒をやめろと言われれば渋々従うなど、ジニーを母親と捉えている部分もある。
娘のキャロラインを溺愛するのは、前の結婚や(妻とは死別)失ったものに対する郷愁からで、今を生きることができずにいる。

キャロライン(ジュノー・テンプル

父ハンプティの反対を押し切ってマフィアと結婚して、ダメになったらホイホイ戻ってくるあたりなど、好き勝手に生きている女という印象だが、ジニーに気を遣ったり、思いがけずミッキーとの関係に慎重だったりと案外冷静に行動する一面もある。
人の顔色をうかがうところが時代設定は1950年代だけど何処か「ゆとり世代」に似た気配りを思わせる。

 

nojirika.hateblo.jp

 

感想・レビューなど

ニューヨークのコニーアイランドという、都会の観光地に集まる男女の生きざまを淡々と描いた作品。
時代設定を1950年代に置いたことで、四人の男女の微妙な心情に独特の閉塞感が加わりいい味わいが出ています。

ストーリーは本当に単純なのですが不思議と引きつけられました。

そろぞれのキャラクターが濃くて、キャラだけで話になるところがすごい。
不倫の話って最後はバレるか別れるかくらいの結末しかなくて、お決まりのパターンになりがちですが、ちょっと違う展開になっていくところも面白い。

これはもう、ひとえにケイト ・ウインスレットの演技にかかっているというか、ケイト・ウインスレット劇場という感じです。
ケイト・ウインスレットといえば『タイタニック 』が鉄板ですが、時の流れを感じさせます。
印象深いところだと『愛を読む人』での捨身の演技が記憶に残っていますが、今回はやはりくたびれた雰囲気ではありますが、もっと人間味のある役柄です。

 
ジニーはウエイトレスとして働きながらハンプティとの生活を守っています。
でもそれは前夫との身から出たサビ的な別れを後悔してるからで、だから不満ばかりのハンプティの結婚生活にをやり過ごしながら、何処かに本当の自分の居場所があると信じているのです。

もうすぐ不惑を迎える自分は毎年歳を取り、女としての価値は下がる一方。
理解がなくて価値観も合わない夫。
問題が多くて放火騒ぎを起こす息子。
そこに若くて美しい義理娘が登場し、ジニーは嫉妬でますます苛立つようになります。

心の拠り所にしていたミッキーすら娘に取られてそうになり、ジニーはあらゆる手を使って二人を引き離して阻止しようとしますが、恋の引力を引き離すことはできません。

ジニーの顔には疲れが表れていますが熱量が失せたわけではなく、切羽詰まった女の不思議なオーラが漂います。
年齢と共に失っていくあらゆる物を、何か別のものに変換させるような美しさがジニーにはありました。

それはミッキーとの恋が影響していて、ミッキーにもジニーの本気度合いがわかるから、本当は義理の娘にあたるキャロラインのことが好きなのにジニーと別れることができない。

これがもし普通に不倫相手と義理の娘が結ばれる話であったら、安っぽい再現フィルムみたいな展開になりそうですが、しっかり哲学を感じさせるところがさすがウディ・アレンです。
『マッチポイント』のときも感じましたが「瞬間の悪意」が巧みに表現されています。

 

人の心は誰にもコントロールできず、なすがままにするしかない。
人生はブーメランとも言えるのかも。
無理をして人の心を引き止めようとしても、結局残るのは虚無感だけです。
 
近年、特に日本では不倫はもしかすると犯罪と同じほどの非難を受けてしまい兼ねないほど厳しい視線に晒されがちですが、不倫にも色々あって日常を守るために継続する関係もあるのかもしれないとこの話を見ていて改めて思いました。 

 「ウエイトレスを演じているだけよ」

ジニーはミッキーにそう語り、現実の満たされなさを訴えます。
男と女の関係は、観覧車のようにままならないものです。

 

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
のじれいか でした。
 


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