のじシネマ

映画の感想を書いています。絶望と不条理を映画に求めてしまいがち。ときにネタバレ。

 本サイトはプロモーションが含まれています

【映画】ウォールフラワー【あらすじ、感想など】青春は人生で最も心に刻まれるべき瞬間だ

『ウォール・フラワー』

これぞ共感映画
星★★★★★ 5 

f:id:nojirika:20200306184220j:plain

『ウォールフラワー』★★★★★
読んで字のごとく、壁の花になっている男の子の話
 

ウォールフラワー 作品情報

  公開年度 2012年
  上映時間  103分
  監督 スティーヴン・チョボスキー


  

キャスト  

チャーリー・高校1年生の内気でアウエィ男子(ローガン・ラーマン)
サム・高校3年生女子、義兄パトリックと仲良し(エマ・ワトソン)
パトリック・高校3年生男子、義妹サムと仲良し(エズラ・ミラー)

 あらすじ

高校に入学したチャーリー(ローガン・ラーマン)は作家志望のダサくて孤独な男子。
やりきれない日々を癒すかのように架空のトモダチに宛てた日記を綴っている。
あるときチャーリーは最上級生パトリック(エズラ・ミラー)とサム(エマ・ワトソン)という義理の兄妹と親しくなる。パトリックとサムとの出会いで楽しい日々を過ごすようになるチャーリー。しかしパトリックとサムの卒業は迫り、チャーリーは子供の頃から抱えるトラウマが脳裏を過ぎるようになって……。 

評価、レビュー

時代背景は1990年代の始め。
通信手段も現在ほど発達していなくてティーンエイジャーたちは、自分を取り巻く世界から抜け出す手段を求めている、閉塞感のある時代でした。

情報が今のように溢れていないから、みんなが外の世界に夢を求め、酸欠になった金魚みたいに水面を目指しながら、漠然と現状を脱出できれば夢のような何かが待っていると本気で信じていた時代でした。

 

何処かわからないけれど、何処かに行きたい。そういう気持ち

 
劇中に出てきますが、音楽も今みたいに簡単には手に入らないので、カセットテープで曲を贈り合うようなシャイでかわいいことも流行っていました。
音楽は自分の心を代弁する第二の言語のようなものだったかもしれません。

青春に音楽が欠かせないのは(青春が終わっても)今だって変わりないのでしょうが、熱量が絶対的に違いました。

心が弱くてギリギリの状態で自分を保っていた高校生のチャーリーは、学校行事のフットボールの試合を観戦しているときに、最上級生のパトリックとサムの義理の兄妹と出会い、孤独の世界と現実が繋がったような実感を抱きます。

誰か圧倒的な存在感を持つ外の世界と触れることで、自分の世界が信じられないほど変わるというか、その人たちの存在が外界そのものみたいに思えることはままあること。そしてパトリックは元気を取り戻す。

 

パトリックとサムは両親の結婚で兄弟関係になった他人同士ですが、とても仲が良くて最初は恋人なのかと見間違うほどですが、それぞれにパートナーがいることがわかり、チャーリーは自由で明るいサムに惹かれていきます。


パトリックはサムやパトリックたち上級生(大人)から手を差し伸べてもらい、癒され、人生を学び、恋をして、自分自身と戦いながら彼は成長していきます。

けれどパトリックはふとしたことで自分に正直に行動してしまったことで、せっかく得た仲間から信用を失い、また一人になってしまう。
孤独になった彼の脳裏には、かつてのトラウマがまた近づいてきてしまうのです。

 

本当はわかってる。きっとみんなわかってる

 

パトリックだってわかっていたはずなのです。

素敵な仲間だって卒業してしまえばお別れ。
友人関係は環境によって変化するもので、永遠などないってことくらい。

だから本当の困難を乗り越えていくのはチャーリー自身でなければならず、自分の心と立ち向かえるのは自分しかいない。

一人孤独と立ち向かうシーンがあったことで、私たち観ている側は救われたと思います。それこそが現実であって、生きるための本質だと思うから。

現実の世界では映画のように素敵な仲間がいきなり眼前に現れ、自分を取り巻く世界を変えてくれる……そんなことは起こり得ない。
もしあったとしても、自分の内心を他人に面倒を見てもらうことはできないからです。


でもだからこそ映画や物語は美しいし、価値があるのではないかと私は思うのです。
こんな友情が空から降ってくるように簡単に育むことができたらどんなにいいだろう……と酔うことができるのだから。


物語にはリアリティが加わることで面白みが増しますが、ウォールフラワーでも共感できる青春アイテムが光っていました。

パトリックが運転するトラックで夜中のハイウェイをドライブする3人。
Heroes (デヴィッド・ボウイ)を聴きながら、サムは後部座席で立ち上がり風を感じる。チャーリーは無限と永遠を感じます。


何者かになれるような高揚感
私はここですっかり持っていかれた感じです。

 

万能感みたいな感覚かしら 

 

確か私も高校生のとき誰かの車に乗せてもらって、高速を走ったときに似た持ちになったことを思い出しました。
だけど一体何時、誰の車に乗ったのか、誰と一緒だったのか、全く思い出すことができません。
あれは全部私の幻だったのかもしれません。

この作品は青春まっさかりの人というより、過ぎ去った遠い青春の日々を懐かしむ余裕(諦め)を持てる大人にこそ愛される映画ではないでしょうか。

主人公のチャーリーを演じているローガン・ラーマン厨二病の役が素晴らしく巧い!
子役からキャリアをスタートさせた役者さんで健全な役も演じていますが、本作は『シドニー・ホールの失踪』と同じく心を病んだ作家の役柄だといえます。
まるでこの作品が『シドニー……』の前作のように思えるほどでした。
(『シドニー……』は悲劇ですが……)


エマワトソンは鉄板の女優ですし、エズラ・ミラーは『少年は残酷な弓を射る』で緊張感溢れる魅力を放つ役者さん。

ただし作品自体は、高校生の閉塞感を描いた話なので、短調な日常のシーンが多く、大人には刺激に欠けるのも事実。
叔母さんのエピソードが不十分な印象だったり、学内におけるカースト制度だとか日本の社会とは異なる場面があって理解しづらいところも多少描かれています。
でもそれらを押してもとても魅力的な映画だと思います。

好き嫌いは分かれるかもしれませんが、過ぎ去った時間は戻らないけれど、少しだけ振り返ってみたい、という人には是非オススメしたい映画です。

  

★★★★★ 素晴らしい。
テーマ「若さゆえに感じる息苦しさと、閉塞感から脱出しようともがくことで大人になる姿」
ログライン「心にトラウマを抱える高校生が、新しい出会いを経ながら成長する話」 

 
それでは、また。
のじ・れいかでした。


映画レビューランキング