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【映画】時をかける少女(1983)「芳山くん!」少女は確かにそこにいた あらすじ ・レビュー

時をかける少女』は筒井康隆による原作で、
これまで何度もリメイクされてきたSF作品の傑作です。

 

これは尾道三部作の一つ。 

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作品情報・キャスト

公開年度 1983年
上映時間 104分
監督 大林宣彦
原作 筒井康隆
脚本 剣持 亘
キャスト 芳山和子(高校一年生)原田知世
     深町(高校一年生)高柳良一
     吾郎(高校一年生)尾美としのり

イントロダクション

学校のスキー合宿の夜、同級生で幼なじみの吾朗(尾美としのり)とふざけ合っていると芳山和子(原田知世)の元に、同級生の深町(高柳良一)が現れる。

合宿が終わり、4月16日、土曜日の放課後。掃除当番の和子、深町、吾朗は理科実験室の掃除当番をする。深町と吾朗は荷物を取りに行き、実験室に一人残る和子は、誰かの気配を感じる。フラスコが倒れて煙とともにめまいがして倒れてしまう。
それから和子は何か落ち着かず気持ちがざわつくことが増えるようになって……。 

感想・気になった点

歴史を感じる作品

時をかける少女』は大林宣彦監督による尾道三部の2作めの映画で(ほかは『転校生』『さびしんぼう』)広島県尾道を舞台にした情緒的な作品です。
情緒的な風景にSF的なストーリーが絶妙に絡まり、味わい深い作品になっています。

時代とともに姿を変える街の風景を残した貴重な作品でもあります。
ちなみに「尾道三部作」という名称は大林信彦監督のファンがそう呼んだことが発祥しているそうです。 

本当はアイドル映画だった

エンドロールで実験室に倒れていたのに突然立ち上がり、主題歌『時をかける少女』を歌い出す原田知世の姿に、当時アイドル映画とも評価されていた(実際そうだった)のは肯けます。

この作品は当時大ヒットして、その年の邦画配給収益第2位を記録しているのですが、実は大ヒットしたのは想定外で『角川映画大型新人女優募集』で特別賞を受賞した原田知世へのご褒美として企画されたものだったと何かの本で読んだ記憶があります。

原田知世はこの作品で日本アカデミー賞で新人俳優賞を受賞、その後は角川三人娘薬師丸ひろ子と渡辺典子)と呼ばれ、あらゆる映画に出演するようになります。

ストーリー・和子の不安と時をかける二人

ラベンダーを嗅いで倒れた和子はタイムトラベターになって同じ空間を行き来するなど、おかしな現象を経験します。

思春期の女の子にありがちな気持ちの揺らぎだろうと、周囲は心配しますが、和子の本当の心配はそこにはありません。

話を聞いてほしいけれど誰にも打ち明けず胸に抱え込むのは、この年代の女の子らしい影のようなもので、悩めば悩むほど和子は美しくなっていきます。

誰にも打ち明けられず悩んでいた和子に、深町は静かに寄り添いますが、最初は疲れているからと和子の悩みをさりげなく交わします。

和子はたぶんその頃から深町への思いがあったのでしょう。
けれども言葉にすることはできない。
だからかつての思い出と寄り添うことで、深町への思いを子供の頃の思い出と同化させようとします。

やがて和子は深町への愛情が深まっていくのと同時に、深町が次元を超えて和子の時代を訪れたタイムトラベターであることを知ることになります。

ジュブナイル小説だとか

私が最初にこの作品を観たのはテレビでした。
そのときの記憶はあまり残っていなかったのですが、改めて観ると立派なSF恋愛映画じゃないかと感動しましたし、同時に恋愛映画でもあり、どうしようもない別れという普遍的なテーマの代表格ともいえる作品であることに気づきました。
 

時をかける少女の原作は発表当時はティーンエイジャーを対象に書かれた「ジュブナイル小説」(今で言うラノベ)というカテゴリーだったらしく、本作映画のキャッチコピーは「愛の予感ジュブナイル」。
意味はわかるようなわからないような微妙な感じですが、なかなか憂いがあっていいと思います。

 
冒頭の雪山シーンが夜なのも幻想的でいい。
モノクロのシーンが、スキー教室からの帰路の電車内で徐々に色が増していくのですが、深町の心情と世界への融合を表現しているように思えました。
また何も悩みのない元気な少女に待ち受ける恋心も予感させます。


時代のまるで違う高校生の男女(男は学者だけど)があっけなく恋に落ち、だけど別れる運命、如何ともし難いところは切なさマックスです。

『僕は明日、昨日のきみとデートする』も似た流れを汲んでいますが……もちろん元祖はこちらの作品。
抗うことのできない力に恋を載せると素晴らしい作品ができるみたいですね。
 

nojirika.hateblo.jp

 
原田知世と相手役の高柳良一の演技はぎこちなくて、台詞は棒読みに近いのですが、それが今観ると逆に新鮮に映りました。
好きなのに、全部捨ててあなたの時代に連れて行って欲しいと訴えるくらいに彼のことが好きなのに、別れてしかも記憶も消されてしまう切なさ。

当時の原田知世は役柄と同じ15歳。

台詞もなかなか味わい深く「芳山くん」には昭和を感じずにはいられませんでした。
しかし大林監督と脚本家の剣持 亘は、そんな少女に向かってこんな大人じみた台詞を言わせます。

「あなたとの思い出を、大事に大事にして生きてゆきたい」
「私もう、あなたと……」

キスシーンもない淡々としたラブシーンですが、台詞だけだとまるで30過ぎた男女のようです。しかしその矛盾も美しいのかもしれません。

 

この映画も冒頭(雪山の前)に次の文章が出てきます。

「ひとが、現実よりも、理想の愛を知ったとき、それは、ひとにとって、幸福なのだろうか? 不幸なのだろうか?」

 

画面に映るこの言葉がこれから起こることの全てであり、
どう感じるかは、観た人それぞれが決めることなのでしょう。

とてもいい映画でした。

 

それではまた。
のじれいか でした。

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