【映画】ノルウェイの森 雰囲気は悪くないんだが原作未読でも既読でも消化不良が残る【ネタバレ・感想】
ノルウェイの森といえば、名前くらいは聞いたことがある伝説の小説。
元を辿ればビートルズの曲名(Norwegian Wood)でございます。
そして原作は村上春樹。
I once had a girl
Or should isay she nce had me
she showed me her room
isn't it good Norwegian wood?
<ざっくり言えばこんな話>
1960年代に青春時代を過ごした男が、二人の女性のあいだで揺れる。
……といったお話。
作品情報
作品情報
公開年度 2010年
上映時間 133分
監督 トラン・アン・ユン
キャスト 松山ケンイチ、 菊地凛子、水原希子、高良健吾、玉山鉄二
簡単なあらすじ
1960年代。大学入学のため上京したワタナベは、高校時代に親友のキズキが自殺して孤独を抱えていた。そんなワタナベはキズキの恋人だった直子と偶然再会する。
以前から直子に好意を寄せていたワタナベは直子と関係を持つが、直子はキズキの死を受け止めきれず心を病んでいた。
その後、直子はワタナベの前から忽然と姿を消し、後日、直子からワタナベの元に、遠方の療養所に入院をしたことを報せる手紙が届いた。
感想・レビュー
映像は美しく、幻想的な場面が印象的です。
ですが、ストーリーは、原作ファンがすれば「話が違う」「こんなはずじゃ」と感じてしまうかもしれない。
どういう所でそれを感じるか、以下に書いていきます。
回想がなく現在進行形で話が進む
原作のキモとなる場面は、物語の冒頭、37歳になったワタナベが、出張でハンブルグ空港に着陸するとき、機内で流れる『ノルウェーの森』(Norwegian Wood)のBGMを聴き、意識が過去に引き戻される所です。
つまりワタナベには、時間が経過しても消化できない過去があること。それが今でもふとしたきっかけで顔を出してしまうことがわかります。
やがて40代になろうとしているワタナベの心の中に、その厄介な過去は曖昧な記憶になりつつも強い意識として存在していた。ワタナベの意識は、苦しみを噛み締めながら当時へと遡っていくわけです。
けれど映画では、ワタナベの二十歳の大学時代、つまり1960年代が現在進行形としてストーリーが進むので、まるで違う話のように感じてしまう。
ただ、たまに登場するワタナベのナレーションで「これは過去ですよ」と教えてくれてはいます。これは原作を読んでいれば「そうそう」と頷けますが、未読だと雰囲気で理解するしかないのでしょう。
複雑な関係が十分に描かれているか?
原作では、中年になったワタナベの視線で、若気の至りが語られていきます。
直子とワタナベは関係を持ちますが、じつは直子とキズキは結ばれてはいなかった、したくてもできなかった。それなのにワタナベとは簡単にできてしまった、そんな話をワタナベは直子から聞かされる。直子はすごく繊細なので、肉体関係と精神が乖離していることを苦しみますが、ワタナベにとっては聞かなくてもいい話でもあります。
その後、ワタナベは、直子が遠方にある山間部の療養所に入ったことを知り、必死にアルバイトをして直子に会いに行きます。それからワタナベは、愛半分責任半分で直子に接していくことになる。
また、やがて東京で大学生活を送るワタナベの前に、緑という活発な女の子が登場します。緑には恋人がいましたが、次第にワタナベに接近。そして何の悩みもないように見えた緑にも抱えている問題があったりして、ワタナベの心は次第に緑に傾いていきます。
早い話、ワタナベは、アクの強い二人の女を行ったり来たりすることに。
一応、ワタナベは直子を愛していますが、直子の心は亡き恋人に向いているので、一緒に生きていくのは困難に思える。ワタナベもそれを承知の上なので、特殊な関係ですよね。
もちろん映画でも複雑な男女関係が描かれていきますが、構成的に切り貼りっぽくなってしまい、事実関係だけで物事を捉えざるを得なくなるため「直子の気持ちが今ひとつ理解できない」「ワタナベは二股をかけているだけ」といった見方もできてしまうのが残念でした。
タイトル「ノルウェイの森」の存在が消えている
ワタナベが飛行機の機内BGMで『ノルウェイの森』を聴き、なぜ過去を思い出したかといえば、直子が入っていた療養所で同室だったレイコが、ビートルスの曲を弾き語っていたから。レイコがノルウェイの森を弾く場面は映画でも登場しますが、全体の構成としてはすごく弱い気がしました。オリジナルの曲も予告では流れますが、本編では流れません。
ついでに付け加えると、ワタナベの記憶の中でノルウェイの森とセットになっているのは、直子が入院していた施設近くに広がる高原の風景です。
本作監督のトラン・アン・ユンは『青いパパイヤの香り』など、特徴的な映像美が魅力的な作品を手がけるベトナム人の監督です。本作品でも、水辺のせせらぎ、朝露が滴る葉といったカットが用いられ、トラン・アン・ユンらしさがすごくよく出ていました。
ただ原作のワタナベにとっての原風景を想像すると、随分異なる景色を見せようとするのだなと違和感があったりもします。
役者について
これは賛否両論あると思うのですが、あえて言えば、菊地凛子はすごく上手な女優ですし独特な存在感を放っている人ですが、直子役を演じるには癖が強すぎるようにも感じます。
また、緑役を演じた水原希子は、本作が役者出演が初というだけあって、存在感はよいのですが台詞は正直残念です。
玉山鉄二演じる東大生の永沢の恋人・ハツミを演じた初音映莉子のお嬢様ぶりは、すごくよかった。初音映莉子は『月と雷』で高良健吾とW主演したことが記憶にあります。また映画で見たい女優です。
俳優たちはいいですね。高良健吾の登場場面は少ないのですが、玉山鉄二のキレッキレのイイ男ぶりはよい、エロカッコ良い知的なクズ男っぷりが素晴らしい。
ロケ地について
直子が入っていた療養所は、兵庫県の砥峰高原という場所。
あと、直子の訃報を知ったワタナベが、一人彷徨うのは、やはり兵庫県の今子浦というところで、夏場は海水浴場にもなっているそうです。
気がついた場面は、ワタナベと永沢、ハツミが一緒にコンサートに出かける場面で使われているのは、群馬音楽センターです。昭和らしい雰囲気がある建物ですね。
1960年代らしさは溢れている
ワタナベが暮らす大学寮の風景、アルバイト先のレコード店、学食の場面や、学生運動で授業がなくなるところなど、あらゆる場面に昭和が詰め込まれています。
原色でミニスカートのヒッピーやサイケデリックファッションも、緑のコーディネートの中で品よく再現されています。
全体の空気感にはうっとりです。当時の世情を振り返ると、決していい時代とはいえなかったのでしょうが、今にはないパワーのようなものは感じられる。ストーリーと共に、そういった空気感を楽しめる映画でした。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
それではまた。
のじれいか でした。
映画レビューランキング