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【映画】LUCKY(ラッキー) 90歳の男が感じる死の気配 あらすじ・感想

LUCKY(ラッキー)

 一言でいうとこんな話


「一人暮らしで淡々と生きてきた90歳の男が老いを実感し、以前から葛藤して恐れていた死を受け止めるようになるまでの話。」

誰でも歳は取るもの。

 

 

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作品情報

公開年度 2018年
上映時間  88分
監督 ジョン・キャロル・リンチ

キャスト

ラッキー/孤独を愛する90歳の男/ハリー・ディーン・スタントン
ハワード/ラッキーの友人/デビッド・リンチ
ジョー/ラッキーが通うダイナーの店主/バリー・シャバカ・ヘンリー
ボビー/終活専門の弁護士/ロン・リビングストン


デビッド・リンチが俳優として出演しているのですが、ジョン・キャロル・リンチとは肉親とういうわけでないみたいです。

デビッド・リンチの肉親としてはやはり映画監督のジェニファー・リンチが有名ですね。 
ジョン・キャロル・リンチは俳優として多くの作品に出演していますが、監督は今回が初。

主人公ラッキーを演じる、ハリー・ディーン・スタントンは本作品が遺作になりました。

 

簡単なあらすじ

南西部の田舎町、90歳の男性、ラッキーの朝は規則正しい。
行きつけのダイナーの店員たちは常連客のラッキーに気軽に声をかける。夜は顔馴染みのバーでブラッディメアリーを啜るのが日課。ラッキーの友人ハワードは陸亀🐢のルーズベルトが失踪して悲しみにくれている。

翌日いつものように目覚めたラッキーだがめまいを起こして病院へ。医師からどこもそれほど悪くはないと診断されるが、納得できずにいるラッキー。医師は病気ではなく老化であること、誰にでも死が訪れることを告げるのだった。

 

 

 

感想など  

死の質と運命

死は誰の元にもいつか必ず訪れます。
人生100年とは言われていますが、実際のところ100年生きる人はそう多くはなく、それより早く亡くなる場合がほとんどではないでしょうか。 

主人公ラッキーは病院で治療をするような病気はありませんが、遠回しに老化による寿命が近づいていることを知らされます。

ラッキーは90歳になって初めて死を自覚するようになるのなら、なんて楽天的な性格なのでしょうと思ったのですが、やはりラッキーは以前から規則正しく、でも偏屈に自由に生きて、クロスワードパズルを解いたりしながら、実は絶えず死に怯えていました。

死の影に怯えのはラッキーだけではない。
みんな日常で口にはしないものの、内心恐れ怯えているのです。
だから周囲の人間は、ラッキーに理解を示し、その死に近いところにいるラッキーに対して優しく、心配そうな眼差しを向けるのです。

ラッキーの友人ハワードは、財産を譲るつもりでいたペットの亀を探すのを途中で断念します。

ハワードは自分と亀を近くに置くことで孤独から逃れようとし、200年生きる亀の存在をどこかで頼りにしていたのだと思います。

だからハワードは亀に執着していたけれど、亀には亀の都合もあるし、亀なりの生き方(亀生)があるのだと自分の人生とは別の時間を生きていることを認めます。

亀の遺産管理を担当する弁護士ボビーのように、他人の遺書を管理する仕事をしている立場の人間にしたって死は他人事ではありません。

ボビーが車の接触事故で死にかけた瞬間があったことをラッキーに話し、死は特別なものではなく誰にでも訪れることをさりげなくラッキーに伝えます。

生きて時間が過ぎ去った先には(ウンガッツ)があるのみ。
生の儚さをテーマにした映画や小説は少なくありません。
そういう物語は虚無感だけですが、この映画は少しだけ違います。

では私たちはどうすればいいのか? について具体的な答えを導いてくれるからです。

微笑むのだ。

ここがすごく大切。
そう「微笑む」のです。

 

にっこり。 

 

それこそが唯一、無(ウンガッツ)への対応策なのでした。
死は年齢によってリスクは上りますが、それだけではない、生きている以上、死は絶えずつきまとう恐怖です。

だから誰でもが抱える死への恐怖を手放すためには、微笑んで日々を暮らすことしかない。 

「笑って暮らせ」それがテーマの作品です。
なんてシンプルな回答でしょう。

この作品のテーマは非常に深刻ですが、舞台はアメリカですがメキシコに似た乾いた土地で、原色が似合う鄙びて温かな町並が独特の雰囲気。時間の流れが緩やかに見えるところがいい。    
全体的にコミカルな雰囲気でゆるく達観している雰囲気も素敵でした。

いくつかの疑問

またこの映画はラッキーの日常を描きながらも、ラッキーについては多くの謎が残りました。


・深夜電話していた相手は誰?
・部屋に飾ってある子供の写真は?
・なぜ歌がうまいのか?
キューバ語が話せる理由は?
・ 毎日通りすがるEVE’Sの庭は?

ラッキーの人生は数多くの出来事が積み重なって形成されている。
90年間の積み重ねを伝えたかった、ただそれだけなのかもしれません。
ストーリーの伏線は回収されがちですが、そこに静かに置いてあるだけで、観る人に委ねられるのも時にはいいものです。

 

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
それでは、また。
のじれいか でした。

 


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