のじシネマ

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【映画】いとはん物語 大映セットの美しさ! あらすじ・感想

いとはん物語

「いとはん」とは良家のお嬢さんを呼ぶ大阪の方言である。 

 

いとはん 

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ざっくり言えばこんな話
裕福で性格もよいのに唯一容姿だけが残念な女が、ずっと好きだった実家の従業員の男との縁談に心舞い上がるが、男は実は同じ従業員の女と恋仲だったという話。

作品情報・キャスト

公開年度 1957年
上映時間 82分
監督 伊藤大輔
キャスト 京マチコ、鶴田浩二、矢島ひろ子、市川和子、東山千栄子小野道子  

簡単なあらすじ 

大正時代の中頃、大阪西長堀の老舗『扇弥』には三人娘がいるのだが、下の二人の娘、お咲(矢島ひろ子)と菊子(市川和子)は器量よしなのに長女のお嘉津(京マチコ)は不器量だ。
稲荷神社を参拝した三姉妹はチンピラたちにお嘉津の容姿を馬鹿にされ、お咲と菊子は気分を害して帰ってしまうが、お嘉津は一人お参りを続ける。
いよいよお嘉津を笑いものにするチンピラを扇弥の番頭、友七(鶴田浩二)が止めに入り喧嘩になる。以前から友七に思いを寄せていたお嘉津の心は一層友七に傾くのだが。

 

感想・レビュー

優雅で情緒がある大正時代の裕福な暮らしぶりにうっとりします。
老舗の商売人の家なので、人の出入りが多く騒々しい雰囲気なのですが、それがまた華やぎを添えています。

お嘉津がお友達の結婚祝いに贈る、さんごの帯留めが映るのですが繊細な細工で素敵です。

どこの物か知りたくて箱に書いてある店名を凝視しましたがわかりませんでした。
オープニングにも協力が出ていなくてがっかり。
お嘉津がつけている大粒の真珠の指輪もシンプルで素敵です。

 

しかし、大映の映画はいいですね。オープニングはモノクロなのですが、本編で黒い瓦が続きぐーっとカメラが下がって、ところどころに祭りの赤い色が入ってくる。

なんて粋なんでしょう。
そして老舗『扇弥』の店先で艶やかな扇を広げた女性客が映ります。
当時劇場で観ていたら、間違いなくため息を漏らしたと思います。


店の大きな店の二階は家族の住居になっていて物干しの広縁があります。
今は亡き先代が大切にしていた菊の花が咲いている。
今はお嘉津が手入れをしており、友七は先代への義理もあるのか同じ広縁で自分の菊を育てている。

お嘉津はチンピラから助けられてから、いよいよ友七のことが好きになっていました。
夕陽のなか数日店を留守にする友七は、お嘉津に菊の花の世話を託します。
その風景は艶やかですがすごく切ない景色です。
自分の家でこんな思い出を共有しているというのに、叶わない恋なのだから。

友七は普段は物静かですが、無礼な連中からお嘉津が不愉快な目に遭っているときは躊躇わず声を上げる男気もあって、お嘉津が心惹かれるのもわかる気がします。

 

お嘉津が友七が好きなことを知ったお嘉津の母は、さりげなさを装って友七との縁談を勧めます。
喜びで涙するお嘉津。

でもやっぱり友七も男、器量もよく心根もやさしい、女中のお八重に恋心を抱いてしまうのです。
縁談が持ち上がる前から友七はお八重が好きだった。
でも仮にそうでなくても友七はお嘉津との縁談を断ったのではないか、何となくそんな気がします。

容姿は自分では決められない。

不器量女子が主人公というストーリーは、近年でいえば『ブスの瞳に恋してる』なんかがメジャーなところですが、あれはタイトルどおりに、相手が好きになる話なので何ら問題はないですよね。

この映画で問題なのは相手がヒロインに恋をしないところ。

ラブストーリーは、主人公が恋に悩むが最後には結ばれる流れがほとんど。
叶わない恋の場合、止むに止まれぬ事情による別離がよくあるところでしょう。


その点でいえばこの作品は救いもないし、悲惨です。
何の足かせもない。それどころか、お店の従業員が店主の娘との縁談を持ちかけられたのだから、普通にいえば玉の輿だというのに。

だけど、お嘉津は育ちも性格もいい女性なので、きっと幸せになれるはず、ラストにはそう考えずにはいられませんでした。


でも真面目な話、友七もお八重もこのまま扇弥で働き続けるわけにはいかず、二人して店は辞めるでしょうから、お嘉津は世間からは噂され、気の毒な思いをすることになるだろうな、といらぬ心配をしてしまいました。


話は変わりますが、育ちがよくてお金持ちで何不自由ない優雅な暮らしぶりがとても羨ましく思えました。
私もこんな暮らしに身を置くことができたのなら、こんなにおっとりとした性格でいられたのかなとぼんやり大正時代のいとはんの気分を味わいながら思いました。

 
原作は北條秀司「名古屋をどりいとはん」。
舞台用に書かれた作品のようです。

最後になってしまいましたが、このお嘉津役を演じた京マチコは、そのままでは到底不器量役ができるわけがないので、特殊メイクで超絶美しい顔を敢えて醜くして役に挑んでいます。

京マチコといえば『雨月物語』『華麗なる一族』あたりが記憶に残っていますが、どちらの役も男を拐かす魔性の女。
こういう役を演じることで、恵まれない女性の気持ちが多少なりとも想像できたのでしょうか。
 
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
それではまた。

のじれいか でした。



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