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【映画】ジェイコブスラダー 【あらすじ、感想など】なぜ怖いのか、その理由を知ること

なぜ「怖い」のだろう。
原因には必ず理由がある。


観たことのある人の多くが「怖い映画」だという本作品。
その怖さの理由は何なのか……。

 

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この映画「ジェイコブスラダー 」はこれまで観てきた映画の中で、ベスト5に入る怖い映画です。
でも同時にベスト5に入る好きな映画でもあります。

 


JACOB'S LADDER (1990) - Official Full Theatrical Trailer

 

ジャンルはサイコスリラーに分類されています。確かにエグいシーン、不気味なシーンが出てきますし観賞後の後味も悪い。

作品の舞台は一見してゴーストタウンではないし、主人公の男は狂人ではなく普通の男。
そう、男は普通に生きる普通の男でした。
だからこそ、この話は恐ろしく、同時に深く感動するのです。


ジェイコブス・ラダー 』★★★★★ 観ておいた方がいい映画

 

  

 『ジェイコブス・ラダー 』タイトルの意味

 

主人公はジェイコブ・シンガーという男。
タイトルにもなっている「ジェイコブ」は主人公の名前であり、同時に旧約聖書の登場人物ヤコブを指しています。

本作品は旧約聖書から登場人物の名前を取っており、ジェイコブ以外では、恋人のジェシーは別名エッサイ、ダビデ王の父の名前から、末息子のゲイブは大天使ガブリエルから名付けられています。


そして「ラダー」は2つの意味を持ちます。 


ヤコブの梯子(ラダー):旧約聖書ヤコブが夢で見た、地上と天国を繋いだ階段、天使が上り下りする梯子のこと。

・試験薬の名前(ラダー):ベトナム戦争時、LSDを製造して逮捕された研究者が、軍から無罪にするからと持ちかけられた取引きで製造した、人間の闘争心を刺激する薬。

 

【考察】何がどうして怖いのか?

 

「人は、一日に一歩ずつ『ジェイコブの階段』を登っている」

この映画の公開当時、付けられたキャッチコピーです。
天に向かう梯子を上るという行為が意味するものは何か。
生きるものが必ず辿る死を指すことが、わかりやすく伝わる言葉です。

このキャッチコピーを現実に置き換えると、誰もが着実に近づく死を自覚しながら生きている。
それこそが、階段(梯子)を上ることだと考えられます。

生死感を旧約聖書を元に描き、なおかつベトナム戦争反戦的思想で捉えたのが本作品の大筋です。


この作品が単なるホラー映画やサイコ映画と異なると感じるところがそこで、誰もが必ず受容れざるを得ない死について描いたことが恐怖に繋がっていると私は考えます。

 

 作品情報・キャスト 

 

公開年度  1990年

上映時間 115分

監督 エイドリアン・ライン

脚本 ブルース・ジョエル・ルービン


キャスト  ティム・ロビンス、エリザベス・ペーニャ、ダニー・アイエロ、プルイット・テイラー・ヴィンス、エリク・ラ・サル、ジェイソン・アレクサンダー、マット・クレイヴン、マコーレ・カルキン 

 

監督のエイドリアン・ラインは陰影を美しく撮ることで定評のある監督。
フラッシュダンス』(1983年)『ナインハーフ』(1986年)『運命の女』(2002年)などの作品を手掛けています。

脚本を担当したブルース・ジョエル・ルービンは『ゴースト』(1990年)を執筆した脚本家です。

主人公のジェイコブ・シンガーを演じたティム・ロビンスは『ショーシャンクの空に』(1994年)『ミスティックリバー』(2003年)などが代表作。
ミスティックリバー』ではオスカーで助演男優賞を受賞しています。

テーマ「死を受容れるということ」

ログライン「ベトナム戦争で刺されたアメリカ兵が絶命するまでの意識の葛藤を描いた話」 

 イントロダクション

地下鉄の中でジェイコブ・シンガー(ティム・ロビンス)が見た夢は怖い夢だった。
1971年、ベトナム戦争の兵士だったジェイコブが仲間と駐屯地で体を休めていたところ、急に大勢の兵に襲撃された夢だった。
腹部に違和感を感じるジェイコブの片手には『STRANGER』というタイトルの本。

部屋に戻ると若く魅力的な恋人ジェシー(エリザベス・ペーニャ)がジェイコブを待っている。その夜ジェイコブは戦地の草むらで助けを求めている夢を見ていた。

評価・レビュー 

瀬戸際の風景

本作品を感じ入ることができるかそうでないかは、誰もが通る、死の間際とその自覚を描いていることに気づくか否かです。


ジェイコブ・シンガー は死の際で、実在する郵便局員ジェシーを恋人にして同棲生活を送りつつ、末息子のゲイブの死を思い出して涙します。

ゲイブの死はジェイコブにとって、おそらくこれまでの人生で最も辛いことだったのでしょう。
しかし自分自身は死を認めずに意識の世界に身を置くことで、ゲイブの死と自分の生は遠い場所にあると思い込もうとします。


忍び寄る恐ろしさと不安から逃れようとするジェイコブ。
だからこれまでの暮らしとはまったく別の、若い愛人との生活を手に入れます。
脳内の出来事ではあっても、すべて新しくやり直しているというのにジェイコブは苦悩は続きます。


ベトナム戦争の帰還後に精神を病み、体も健康とはいえず背中に絶えず痛みが奔る。
それは死への恐怖を予感させるものでした。
死から逃れようと別の生活を続けるジェイコブですが、自らが恐れ慄いている場所にゲイブを送ってしまった遣り切れなさに涙しながらも、それでもジェイコブは死を遠ざけます。
 

ジェイコブは何度も目覚めますが、そのたびに違う場所にいて、絶望したり安心したりを繰り返します。

氷の浴槽の中で気絶して目覚めたジェイコブがいたのは、自宅の快適なベッドの中でした。隣には妻が寝っておりジェイコブはそのとき心底安心した表情を浮かべます。
幸福な家族のひととき、これが現実だったらいいのに、そう思ったのも束の間、ジェイコブはやはり氷の浴槽でジェイコブは目覚めます。

この作品でもっとも心に沁みて、なおかつ救われたのは、整体師ルイの存在です。
ジェイコブはルイを「智天使だ、命の恩人だ」と言います。

ルイは死を恐れるジェイコブの唯一の光であり希望でしたが、ルイの存在は救いを求めたジェイコブが自分の脳の中で作り上げたものなのでしょうか。
それとも本当に智天使ケルビムだったのか。
その解答は不明です。
もしジェイコブが意識と脳の中で、救いを求めて智天使すら作り上げていたと考えると切ない。

「死を恐れながら生き長らえると悪魔に命を奪われる。でも冷静なら、悪魔は天使になり人を地上から開放する」

ルイがドイツの学者エルクハットの言葉を借りてジェイコブに告げた言葉です。
この台詞がこの映画の核であり、テーマではないでしょうか。

 

人間は誰でも自分で自分を管理しながら生きていますが、その自分(自己)を失うときの不安と恐怖は、どんなに強い人でも容易には受け入れがたいはずです。

他者の視線から見えていなくても、死にゆく人の脳内では自分の死を受け入れるために大変な葛藤が起こっている。
そのことを真っ直ぐに捉えて描き切った作品でもあります。

 

また、本作品はサイコスリラー映画として、映像やヴィジュアルのことが取り上げられています。

ぬかるみに足を入れる不快な感じ、電車の中で自分を見ている不気味な顔、高速で顔を振る足のない男らしき人、大勢の中で自分を凝視しているのに自分からは見ることのできない謎の顔、内臓を踏み潰しながら進むストレッチャー……など『サイレントヒル』のイメージモデルになったとも言われており、グロいけれど人間の不安と恐怖がこれでもかというほど表現されています。

 

でもこの作品が伝えたかったのは、それだけ一人の人間にとって死は苦しくて受け入れがたく、深い葛藤の先にあるものだからなのでしょう。 

 

カールソン医師には会えない・パーティーで「あなたは死んでる」

道を歩いていたジェイコブは突然車に襲われます。
車に乗っていたのは気味の悪い顔の連中で、車窓から高速で顔を振っています。

この世の者ではないことはわかりますが、見る側も、心のどこかでわかりたくない気持ち、どうか現実であってほしいという願いが、不気味な世界から目を逸らせようとするのかもしれません。

 

ジェイコブは病院の受付でカールソン医師の診断を受けたいと言いますが、不気味な受付の女からカールソンという名の医師はいないと言われてしまいます。

カールソン医師は実在する人物だったのか、それともジェイコブのイメージの存在なのかそれはわかりません。

ただわかるのはジェイコブは会いたい人に会える立場にいないこと。
それだけは確かなのです。

 

ジェシーに連れられてホームパーティに参加するジェイコブが冷蔵庫を開くと、獣の頭蓋骨が入っていて驚愕。しかも手相見の女からは「あなたはもう死んでいる」と言われてしまいます。
それ以外にも辛くなったジェイコブはジェシーに「僕は死んでる?」と尋ねるところが出てきます。
手相見の女によって真実がわかってしまうのですが、見ている側のこのときはまだ、その言葉に半信半疑な人が多いのではないでしょうか。

そういう半信半疑なのと、わかりたくない、現実であってほしい、という願望が加わって、ドラマは混乱します。

仲間との再会

ジェイコブが悪魔払いの本に夢中になっているとベトナム時代の仲間のポール(プルイット・テイラー・ヴィンス)から連絡が入り2人は再会します。

お互いが感じる違和感を共有してそのときは気持ちよく別れることができましたが、別れ際、ポールの乗った車が爆発します。

ポールの葬儀でほかの仲間とも再会し、ポールの死は事故ではなく故意で政府が関係していると話し合ったジェイコブたちは、敏腕弁護士のギアリー(ジェイソン・アレクサンダー)は、軍の工作があったことを疑い訴訟をすることになりますが、結果としては意味をなさない話し合いでしかありませんでした。

帰り道車に轢かれて病院に担ぎ込まれたジェイコブは、恐ろしい地下の病棟に運ばれ恐怖の中にいるところをルイに救出されます。

ジェイコブが行く場所は

秘密実験をしていたマイケルという男性から、ラダーという怒りのコントロールを失う名を軍の命令で作っていたことを聞きます。
そしてタクシーに乗ったジェイコブはブルックリンに向かいます。
ジェイコブの姿に顔を上げるゲイブ。「大丈夫だよ」ゲイブはジェイコブを抱きしめ、「上に上がろう」とゲイブはジェイコブの手を取るのです。

ジェイコブが意識のなかで登場させている人物は、大概実在している人ですが、現実の役割とは異なることがわかります。

 

ジェイコブは何を悟り、どこに行くのでしょうか。


それでは、また。
のじれいかでした。

 


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