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【映画】ラブレス ネタバレあり【あらすじ、感想など】酷親?環境と相手を変えるだけでは人は幸せになれない

のじれいかです。

今回は『ラブレス』についてご紹介します。

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『ラブレス』★★★★

心が寒くなる話

 

ラブレス 作品情報・キャスト

 
公開年度 2017年
上映時間  103分
監督 アンドレイ・ズビャギンツェフ

 

キャスト 
妻ジャーニャ(マリヤーナ・スピヴァク
夫ポリス(アレクセイ・ロズィン)
息子アレクセイ(マトヴェイ・ノヴィコフ)
ジャーニャの母マーシャ(マリーナ・ヴァシリヴァ)

 

イントロダクション

結婚12年目で不仲な夫婦、妻ジェーニャ(マリヤーナ・スピヴァク)と夫ポリス(アレクセイ・ロズィン)にはお互い恋人がいて離婚間近だ。
マンションも売り出だすことが決まったなか、息子のアレクセイをどちらが引き取るかが夫婦の目下の問題で、どちらも引き取りくないため互いに押し付け合っている。
そんなとき、アレクセイが行方不明になり夫婦はアレクセイを探すのだが。
 

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評価、レビュー

舞台はロシア。
愛のない夫婦とその子供の寒々しいお話です。
暗いストーリーを際立たせるように美しい風景が広がっています。


でも夫婦は口を開けば結婚への後悔をまくし立てるばかり。
自分は被害者だと互いを罵り、子供をどちらが引き取るかと押し付け合います。
 

夫婦のエゴは容赦なく炸裂しますが、その分、綺麗ごとゼロの大人の本音100パーセントな映画だともいえます。

最低最悪な父親と母親なのですが、本人たちはどこまでそのことを自覚できているのかが興味深いと思いました。

結婚を失敗と公言して、相手を替えてリセット。
イチからやり直そうとする男女からすれば、その結婚で生まれた子供は失敗の象徴だったとも取れます。

 

やがて身元不明の少年の遺体が収容されたと連絡を受けて、ジェーニャとポリスは駆けつけます。
傷んだ遺体を目の前にして泣き崩れながら「この子は違う、アレクセイではない」と断言するのです。

それが本当のアレクセイだったのか、また彼らが主張するように別人だったかはわかりません。


やがてマンションは人手に渡り、夫婦は予定通り離婚して元夫婦に。
互いに違うパートナーとの生活が始まるのですが、人生をやり直して今度こそ幸せになると断言していたジェーニャはどこか憂鬱そうだし、ポリスは妻の家族のためにローンを組まされそうで気が重そう。

アレクセイが行方不明になって2年が経過。
アレクセイの情報を求めるビラだけが、過去の形を遺しているのでした。 
その何事もなかった感がすごいです。

 

本来夫婦が離婚するにあたって子供の親権をどちらが取るかは、慰謝料よりも大きな問題になるはずです。
『クレイマー、クレーマー(ロバート・ベントン監督)』でもそうでした。
でも一方で、子供を押し付け合う夫婦も少なくないのかもと思いました。

 

そういえばもう随分前のことになりますが、芸能人同士のある夫婦が離婚後、引き取った我が子とのDNA検査をしたところ血が繋がっていないとわかり親権を母親側に……という芸能ニュースを思い出しました。
これは全部大人の事情で、細かいことはわかりませんが、親を選べない子供は気の毒だと思います。

  
ジェーニャは新しい恋人に子供は欲しくなかったと話していますし、中絶を勧めたという実母とのやり取りを見ても温かい家庭に生まれ育っていないのは一目瞭然でした。
ポリスの方も恋人に子供が生まれたのに、愛するどころか明らかに子供を持て余していました。

パートナーを別人にしてやり直せば幸せになれる、という安易な選択しかできないのは、心の幼さと愛情を育むことができない環境に育ったためなのかもしれない。

 
収容された子供の遺体(もしかすると本当はアレクセイだったのかもしれない)に号泣するジェーニャとポリスは、自分たちの意志とは別のところで子供が離れたことに悔いたのかもしれないし、単なる良心の呵責だったのかもしれません。

失ってみなければその大切さに気づかない、そういうことはよくあると思います。
でもこの夫婦が息子を大切に思っているかは不明です。
離婚にあたってマンションを売りに出そうとするシーンが象徴的でした。彼らにとって子供とマンションは同じような存在だったように思えてしまいます。

 

また、この映画で興味深いのは、物語を子供の視線で捉えていないところ。
大人は判ってくれない(フランソワー・トリフォー監督)』『誰も知らない(是枝裕和監督)』などが有名ですが、本作は大人の目線でストーリーが進むので、観ていて不愉快に感じる人は多いかもしれません。

 

愛情を与えられなかった人は、愛情を与えられない。
愛情という感情の器が壊れているから、どれだけ水を注がれても満たされることはない。
そして満たされないことを相手のせいにする。


それだったらひとりで生きていけばいいのに、やはり渇望しているから、愛を外に求めてしまう。

こうして不幸のループは繰り返されます。 

……色々な意味で身につまされる思いがしました。

 

こちらも毒親の話

nojirika.hateblo.jp

 

ちなみに妻のジェーニャは金持ちの男を捕まえるために外見磨きに必死なのですが、それほど美しくないのが逆に生々しい感じでよかったです。

ジェーニャ役を演じたマリヤーナ・スピヴァクという人を調べてみたところ、他の出演情報が載っていないので情報を得ることができませんでした。
ジュリアンムーア似の女優さんです。

 

 ★★★★ 環境や相手を変えるだけじゃ人生はやり直せない


テーマ「愛を得るためには自分も努力が必要」

ログライン「うまくいかないのは相手のせいだと信じて疑わない離婚間近の夫婦が、一人息子が失踪して新しくやり直すも、やはり幸せそうではない話」

 

 

では、また。
のじれいか、でした。

 


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